Pratyaya

  • 建物DATA
  • 2017年 釧路市
  • 用途:アトリエ併用住宅
  • 規模:91.46㎡(27.6坪)
  • 設計趣旨

この住宅は、釧路市の中心部にほど近い港湾エリアに隣接した工業地域に、職住一体の暮らしを営むためのアトリエ併用住宅として計画された。

アトリエには仕事上の来客があるので、南側に取り付く道路側に対してアトリエを面する必要があるため、より北側に配置される住居エリアの採光・通風の確保を検討した結果、アトリエと住居の間にCOURT(中庭)を配置し、アトリエ棟と住居棟を渡り廊下で繋ぐというレイヤー状のレイアウトとした。これによりCOURTは住居棟の採光通風確保という機能の他に、アトリエで作業中も子供たちが中庭で遊び、リビングでくつろぎ、2階カウンターで勉強したりする様子を感じ取れる「ちょうどよい距離感を確保する」という機能も持つことになった。

そして、「距離感」への試みとして、この住宅は市街中心部にありながら、カーテンやブラインドがひとつも無い。これは周辺環境に対しての視覚の操作として、窓の位置やサイズを丁寧にデザインした結果だと思う。周辺からの視線を気にすることなく、外の時間の流れを感じることができる。

COURTはゆるやかなフェンスで囲う事で、安心して子どもたちを遊ばせられる場所になり、コスト上小さくなった平面的な室内の延長上の空間として取り扱う事で、面積以上の解放感を獲得した。さらに、COURTを介し、用意されたハシゴからアトリエ屋根を通ることで、室内外を含めたどこまでも止まらない動線を作り出している。動線の跡切れのないこの住宅には、家族の居場所がたくさん用意されている。そしてそれがどこだとしてもゆるやかに気配を感じられる、とても豊かな暮らしを与えてくれる。縁側で涼み、屋上でのんびりお酒を飲み、カウンターで読書をし、ブリッジで遊ぶ。なにより子どもたちは思いもよらない場所で思い思いに過ごしている。

小さな子供たちが少しずつ大きくなり、自分の空間が必要になった時期に、Pratyayaはまた少し成長する。2階をワンフロアとしている空間に、設定している間仕切りを設けて新しい空間を作り出す用意もしている。僕たちの考える家族と共に成長する余白のある住宅の原型として、僕たちのアトリエ件自邸は出来上がった。

【Pratyayaの由来】

Pratyayaが建つ敷地は、かつて妻の祖父母が飲食店を営んでいた土地だった。ほどなく道路向かいに移転した建物で妻は暮らす事となった。その建物は、一階に飲食店、その他の部分には住居や下宿を要するとても複雑な建物だったと聞く。内部にはたくさんの階段や廊下、部屋があり、侵入した泥棒も迷って出られなくなるというエピソードまであったという、とても面白い建物だ。その建物での生活を楽しそうに話す妻の笑顔がずっと印象に残っていた。

僕たちの新居の敷地選定には紆余曲折があった。希望するエリアは決まっていたが、とにかく予算と土地価格が折り合わない。最終的に3つに絞り、比較検討する日々を重ねた。現在の敷地が一番気に入っていたが、予算が合わない。とりあえず、と一度管理している不動産屋さんと共に敷地を訪れた日。敷地の中に立った時に、とても体になじむような不思議な感覚があった。気持ちの中では「ここだな」と、この時に決めていたような気がする。ダメでもともと、価格交渉をお願いしてみると、なんと驚くほどすんなりOK。購入を決めた。同じタイミングで、他ふたつの候補地はひとつは売約され、ひとつは販売中止となっていた。結局、僕たちにはこの敷地しか残されていなかった。

実はこの時点まで、妻自身もこの敷地に関してそういった縁のある敷地だとは知らなかった。後日、妻の母からそういった事実を知らされた。そういった土地の歴史、タイミングに、導かれるような縁を感じた。

そうと決まればと、すぐに設計を進めた。設計は二人で行った。僕はこの土地に導いてくれたのは、妻の祖父母ではないか?と考えていた。そうとしか思えなかった。そうであるならば、妻のかつて暮らした、不思議な動線を持つ建物。写真さえも見たことのない今はもうないその建物をインスパイアした住宅にしたいと考えた。小さいながらもたくさんの家族の居場所や動線をもった、楽しい住宅。きっと子供たちがいつか妻のように、自分が育った家はこんなに楽しい住宅であったと、話してくれるような住宅。

そうして出来上がったこの住宅に、僕たちは愛情を持って「Pratyaya(プラティヤヤ)」と名付けた。僕たちがかつて旅したインドのサンスクリット語で、「縁」を意味する言葉だ。この縁が、子どもたちやその先にまで、豊かな日々をもたらしてくれるといいな、と考えて日々暮らしている。

(文:齋藤)

外観(昼)外観(昼) 外観(夕方)外観(夕方) 外観(昼)外観(昼) 外観(夜)外観(夜) アプローチアプローチ アプローチ(夕方)アプローチ(夕方) 中庭COURT 中庭COURT(見下) 中庭COURT(見下) リビングリビング リビングリビング リビングリビング リビングリビング見上 縁側縁側に座る息子 縁側縁側に座る息子 diningダイニング 通路アトリエへの通路 通路アトリエ側から自邸 階段階段 階段階段 2F2F BRIDGEBRIDGE